入院顛末記 その2

ようやく座薬が効き始めたころ、ワタシは病室に落ち着いた。そう思ったら入院を勧めた医者が来て言うんである。

「髄液に細菌が入っているかもしれないから検査します。もう暫くしたら脳外科の先生が、髄液を採りに来ますから。」

採りに来るったって山菜じゃないんだからと思いつつ、待てども待てどもやって来ない。面会時間を過ぎ消灯時間近くなっても来ない。もう今日はないんじゃないかと思って妻には帰ってもらい眠りかけたらそいつはやってきた。


歳は40代後半〜50代前半くらい。ちょっと痩せ気味で背が高く中途半端に長い髪。ちょっと高めの声で巻き舌風に喋る。インテリぽいが何となく軽薄な感じ。中年男の典型的なタイプを5つくらいに分けると必ず出てくるような、そんな風貌の脳外科医である。

別の言い方をすると、どこの会社にも次長くらいに必ずいるタイプとも言える。物腰は妙に柔らかいものの時々突飛な提案をして部下を混乱に陥れる。当然子供はおらず、場合によっては独身だったりもする。


そいつが、総婦長っぽいベテラン看護士を連れてやってきて言うんである。

「はーい横になって背中丸めて。」

言われる通りにマヌケな格好で丸まってたら、「はーい痛いよ〜」と言いつついきなりワタシの背骨に針を突き刺してきたのである。

「いってー!!」

針の痛みだけならたいしたことはない。しかしその針が動くにつれ背中に蓄えた皮下脂肪全体が殴られたような重い痛みに襲われる。

「あれ、そんなに痛いですか?」

「いたい。いたい。」

「おっかしいなぁ・・・。」

確かにワタシはどっちかと言えばこらえ性のないほうだ。それは認める。しかし、針が動いた瞬間まったく関係のない左足だけに突然電気が走ったとき、ワタシは思わずこう叫ぼうかと思った。

「このヤブ医者〜!」

しかし、理性というより防衛本能からそれを口走るのは避けられた。

その後、如何にもその場しのぎのような局所麻酔の注射を2回も打たれ、都合3回ほど突き刺し行為は続いた。その行為を終えそそくさと病室を出て行った医者の後について出て行こうとする婦長を呼び止め聞いてみた。

「うまく採れたんですか?」

「それがねぇ、採れなかったみたい。」


採れなかったって・・・。

ワタシはプロじゃない人間に仕事を任せるのは大嫌いだ。


ということで次エントリへ続く。